誰もが知る刃物ブランドが、“まだ誰も知らない”領域へ挑んだ理由。
日本が誇る岐阜県で創業した刃物メーカー。
医療・理容のプロフェッショナルが信頼を寄せる精密な技術力で、国内外に圧倒的なシェアを持つこの企業は、長年“男性のための剃刀”という市場で確固たる地位を築いてきました。
しかし今回、彼らが新たに見据えたのは、「女性の悩みに寄り添う商品開発」。
単なるカテゴリの拡張ではなく、“技術力×共感力”による価値の再定義でした。
売るための設計だけではなく、必要とされるプロダクトを共に考える
私たちがこのプロジェクトでご一緒したのは、「どう売るか」ではなく、「なぜ売れるか」から共に立ち上げる開発設計でした。
多忙な男性社員中心の開発体制だけでは届きづらい“女性の肌感覚”や“日常の違和感”、そして「解決されていないけれど、声になっていないインサイト」。
それらを明らかにするため、我々外部は女性&女性を商材を担当する男性のチーム+クライアント社内の開発・マーケティング部門の男性メンバーとの混成チームを編成。
まずは、既存の男性用剃刀で培われた技術のコアを活かしつつ、
・持ち手のフォルム・厚みの再設計
・カラーリング・手触り素材の選定
・VI(ブランド表現)とUX設計まで包括的に再構築
という**“アジャイル的試作”**を重ね、プロトタイピングを通して精度を高めていきました。
そして最終的には、ヘッド構造まで刷新し、金型からのフルリデザインという大きな決断へ。
まさに、「売る」ための企画ではなく、“使い続けたい”と思われる価値づくりが始まったのです。
社内の技術と、社外の感性を接続する「共創」という選択肢
この取り組みが功を奏し、これまで“男性用”に依存していた売上構造に変化があり。
全国のドラッグストアをはじめ、女性向け部分ケア市場での販路開拓に成功し、新しいターゲット層との接点を獲得しました。
また印象的だったのは、プロジェクトを通して築かれた関係性の深さです。
ある女性メンバーの結婚式の際に、クライアントである方から祝電をいただきました。新婦の普段の仕事ぶりを新郎のご家族などに知ってもらうには、最高のお言葉を頂戴しました。これは単なる業務委託や外注の関係ではなく、**ビジョンと責任を共有する“共創パートナー”**である証だと感じています。
自社だけで完結しない商品開発という選択肢
経営者や事業責任者の皆様にとって、日々の業務は常に“目の前の売上”に追われるもの。
しかし、「売り方」だけではなく「売れる理由」「選ばれる理由」プリファレンスに向き合うことこそ、次のフェーズへの鍵だと思います。
私たちシグニフィカントは、社内で埋もれがちな価値や可能性を対話を通して創造し、社会とつなぐ役割を担います。
長年培った匠の仕組や過去の実績のベースから距離を置くことは、ポジションによっては勇気や覚悟がいることだと、私自身の経験からも痛感しています。それでも私たちは本来の目的や目標が何かを、あの手この手で問い続けれるような意味のある存在でありたいと思います。